【第八回】ウイスキー入門:ジャパニーズウイスキーとは

第七回までに、主要なウイスキー生産国であるスコットランドアメリカアイルランドカナダのウイスキーの定義を解説しました。 今回は、私たちが暮らす国「日本」のウイスキーについて解説をします。

実は冒頭では「ジャパニーズウイスキー」と名乗らず、あえて「日本のウイスキー」と表現しました。 なぜなら、日本の法律におけるウイスキーの定義は世界基準に比べて非常に緩く、国際標準の基準に照らし合わせたときにはウイスキーと名乗れないような製品でも、日本では「ウイスキー」として販売できてしまう現状があるからです。

★この記事で学べること

  • 日本の法律(酒税法)が定める、ウイスキーの3つの具体的な定義
  • 法律上の言葉「混和」に隠された歴史的な背景
  • 世界のウイスキー法と日本の法律における「熟成・産地・度数」の3つの決定的な違い
  • ブランドを守るために始まった「ジャパニーズウイスキー」の自主基準とその限界

日本のウイスキーの現状:法律と業界ルールの二重構造

現在、日本のウイスキー市場を正しく理解するためには、「国が定める法律(酒税法)」と「業界団体が定める自主基準」の二重構造を知る必要があります。 まずは、すべての土台となる「法律上の定義」から見ていきましょう。

法律(酒税法)が定める3つの定義

日本の「酒税法第3条第15号」では、ウイスキーを「イ」「ロ」「ハ」の3つの条件に分けて厳密に定義しています。

【酒税法第3条第15号】

イ:発芽させた穀類を原料とするもの(モルトウイスキー等) 発芽させた穀類及び水を原料として糖化させて、発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの(当該アルコール含有物の蒸留の際の留出時のアルコール分が九十五度未満のものに限る。)(これに水を加えたものを含む。)

ロ:その他の穀類を原料とするもの(グレーンウイスキー等) 発芽させた穀類及び水によつて穀類を糖化させて、発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの(当該アルコール含有物の蒸留の際の留出時のアルコール分が九十五度未満のものに限る。)(これに水を加えたものを含む。)

ハ:日本独自の「混和(ブレンド)」を認める定義 イ又はロに掲げる酒類にアルコール、スピリッツ、香味料、色素又は水を加えたもの

  • イ(要するに): 大麦麦芽(モルト)などの発芽させた穀物と水だけを原料に、糖化・発酵・蒸留を行った、ウイスキーの原酒そのものです。・・つまり、モルトウイスキー
  • ロ(要するに): トウモロコシやライ麦、未発芽の大麦などの穀物を、麦芽の酵素(または水)を使って糖化させ、発酵・蒸留を行ったウイスキー原酒です。・・つまり、グレーンウイスキー
  • ハ(要するに): 上記「イ」または「ロ」のウイスキー原酒に、醸造アルコールやスピリッツ、味付けのための香味料、色を調整するためのカラメル色素などを混ぜたものも、日本では「ウイスキー」の品目として認められます。

法律が用いる「混和(こんわ)」という言葉の意図

ウイスキーの製造において、一般的には「ブレンド」という言葉が使われますが、日本の酒税法ではあえて「混和」という法的な言葉が使われています。

この規定には、日本のウイスキー産業が歩んできた歴史的な背景があります。 1953年(昭和28年)に制定された現行の酒税法ベースができた当時、戦後の物資不足により、本物のウイスキー原酒は極めて貴重で高価でした。そのため、当時は原酒を数パーセントだけ入れ、残りは安価なスピリッツ等を混ぜた「2等ウイスキー」が市場の主流でした。

つまり、高級品だけでなく、広く大衆が安価に飲めるお酒も「ウイスキー」という品目の中に着地させ、広く税金を徴収できるようにするために、この「混和」の規定が必要不可欠だったという歴史的な経緯があります。

現在でも、スーパーやコンビニで見かける1,000円前後の手頃なウイスキーや、大容量のペットボトルウイスキーの中には、この「ハ」の規定によって造られているものが多く存在します。これらは、日々のハイボールなどを気軽に楽しむための「生活に根ざしたウイスキー」として、今も広く親しまれています。

満たさなければならない法律上のルール

上記の「ハ」のように、ウイスキー原酒以外のアルコールや香味料を混和する場合、何でもアリというわけではなく、以下の条件をクリアする必要があります。

  • ウイスキー原酒のアルコール分が「10%以上」含まれていること 混ぜものを足した後の製品全体のアルコール総量に対し、最低でも10%は「本物のウイスキー原酒(イまたはロ)」のアルコール分が入っていなければならないという明確な規定(100分の10以上)があります。裏を返せば、残りの90%がウイスキー以外のアルコール(スピリッツなど)であっても、法律上は「ウイスキー」として販売可能です。
  • 蒸留時のアルコール度数が「95度未満」であること 「イ」および「ロ」の原酒を蒸留する際、留出時のアルコール度数を95度未満に抑える必要があります。これを超えて蒸留すると、穀物由来の風味や個性が完全に失われた純粋なエタノール(スピリッツ)になってしまうため、ウイスキーの規定から外されます。

世界の法律との決定的な違い

日本の酒税法には、スコッチやバーボンといった諸外国の法律と比較した際、以下の3つの要素が完全に欠落しています。

  1. 「熟成期間」の規定がない 諸外国では「木樽で3年以上(あるいは2年以上)熟成させること」が厳格に義務付けられていますが、日本の酒税法には樽による熟成期間の縛りが一切ありません。
  2. 「産地(製造地)」の規定がない 「日本国内で製造しなければならない」という場所の限定がありません。そのため、海外から大量に輸入したバルク原酒(外国産ウイスキー)を日本国内でブレンドし、法律上の「日本のウイスキー」としてボトルに詰めて販売することが完全に合法となっています。
  3. 「瓶詰め時の最低アルコール度数」の規定がない 世界の主要なウイスキー法では、ボトルに詰める際の度数は「40度以上」と法律で義務付けられています。しかし、日本の酒税法には下限の規定がありません(アルコール分1度以上であればお酒に分類されるため)。そのため、37度や39度といった世界基準を下回る度数であっても、日本の法律上は「ウイスキー」と名乗ることができます。

ブランド保護へ動いた業界団体による自主基準

こうした法律の緩さは、世界的なジャパニーズウイスキーのブームに伴い、「国内外の消費者が、本当に日本で造られたウイスキーなのかどうかを判別しにくい」という課題を生むことになりました。当時、外国産ウイスキーに加水やブレンドのみを行った製品などが流通し、国内外の消費者から疑問の声が上がるなど、ブランドの毀損や誤認が懸念される状況にありました。

そこで2021年2月、日本の主要なウイスキーメーカーが所属する業界団体「日本洋酒酒造組合」は、「国内外の消費者の適正な商品選択(消費者保護)」と「事業者間の公正な競争の確保」を目的として、独自の自主基準である『ウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準』を策定・発表しました。

この基準は3年間の猶予期間を経て、2024年4月1日から全面的に適用(施行)されています。

この自主基準において、「ジャパニーズウイスキー」を名乗るためには以下のすべての条件を満たす必要があります。

  • 原材料: 麦芽を必ず使用し、穀類のみを使用すること。また、日本国内で採水した水を使用すること。
  • 製造: 糖化、発酵、蒸留はすべて日本国内の蒸留所で行うこと。
  • 貯蔵(熟成): 内容量700リットル以下の木樽に詰め、日本国内において3年以上貯蔵(熟成)すること。
  • 充填(ボトリング): 日本国内において容器詰め(瓶詰め)し、アルコール分は40度以上であること。

※この基準を満たさない製品には、ラベル等に「ジャパニーズウイスキー」という文言や、日本を想起させる地名・国旗などを表示してはならないと定められています。

【実践】ジャパニーズウイスキーの見分け方

では、酒屋さんやスーパーでウイスキーを選ぶ際、どのように見分ければよいのでしょうか? 一番わかりやすいのはラベルの表記です。上記の厳しい自主基準を満たした製品は、ラベルの正面などに堂々と「Japanese Whisky(ジャパニーズウイスキー)」と表記されています。 逆に、基準を満たしていない製品は、単に「Whisky(ウイスキー)」とだけ書かれていたり、「オリジナルウイスキー」「ピュアモルト」といった表現に留められています。度数が40度未満(37度など)であるかどうかも、見分けるひとつの簡単な指標になります。
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【注意】自主基準が持つ「限界」とこれからの課題

ここで注意しなければならないのは、この基準はあくまで日本洋酒酒造組合が定めた「内規(自主基準)」であり、国の「法律」ではないという点です。

そのため、このルールには以下の2つの限界が存在します。

  • 非加盟の業者に対する法的な強制力や罰則はない 組合に加盟していないメーカーが、このルールに違反して「ジャパニーズウイスキー」とラベルに表記して販売したとしても、法的に罰せられることはありません(※国内の主要な大手メーカーや新興クラフト蒸留所のほとんどが加盟しているため、国内市場での抑止力にはなっています)。
  • 海外での「偽ジャパニーズウイスキー」を差し止めることができない 日本の民間団体のルールに過ぎないため、海外(特に規制の届かない国)の業者が、現地で外国産の原酒を混ぜ合わせて「ジャパニーズウイスキー」として販売する行為を法的に止める手段がありません。

国による法律(酒税法)そのものの改正が行われない限り、このブランド保護の問題は完全には解決しないという、制度上の課題が今もなお残されています。

まとめ

日本のウイスキー市場は、歴史的な背景や税制(徴税)の都合上、極めて緩い定義である「酒税法」がベースに存在しています。しかし、国際的なブランド価値の維持と消費者保護のために、現在は業界による厳しい「自主基準」によって純国産の品質が定義されるようになりました。

ボトルを選ぶ際は、単に日本国内で流通しているウイスキーなのか、それとも厳しい自主基準をクリアした「ジャパニーズウイスキー」なのか、ラベルの表記や度数を意識してみると、その1本の背景にある歴史が見えてくるはずです。

参考文献・公式情報リンク

今回の記事を執筆するにあたり、以下の公的機関および業界団体の公式データを参照しました。より詳しく一次情報を確認したい方は、こちらのリンクからご覧ください。

「ジャパニーズウイスキーの表示に関する基準」の制定について
日本洋酒酒造組合 公式ホームページ
※業界団体が定めた「ジャパニーズウイスキー」の自主基準(原材料、製造、貯蔵、ボトリングの条件など)の概要が分かりやすく記載されている公式解説ページです。

酒税法 第3条第15号(ウイスキーの定義)
e-Gov 法令検索:酒税法
※「第三条」の「十五」に、記事内で紹介したイ・ロ・ハの定義が原文のまま掲載されています。

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